昇進して部下ができたりプロジェクトのリーダーに抜擢されたり、あなたがリーダーシップを発揮しなければいけない時は、ある日突然やってきます。さっそくにリーダーシップを発揮し、部下やチームを良い方向に導きたい思ってはいても、そこは相手があってのもの。部下やチームがまとまらず右往左往するのは、駆け出しリーダーさんにつき物です。
ここでは、そんなリーダーの方に参考になればと、誰でも実践できる実に簡単な方法をご紹介します。
◆ 「あくびがうつる」というリーダー論
方法といっても、難しいリーダー論や人心を掌握するテクニックとかでは無く、あるいは成功者の名言集でもベタな飲みニケーションでもありません。人を動かすために、「あくびはうつる」現象を応用しただけです。
◆ ミラーニューロンという脳神経の活動
ところで他人のあくびは本当にうつるのでしょうか?
最近の神経科学で、他人の行動を見てそれがあたかも自分がしているかのように、「鏡」のように映し出す「ミラー・ニューロン」という脳の活動があることが分かっています。しかもこれは、他人の感情までも映し出してしまうという驚きの脳神経活動です。
身近な人と口癖やしぐさが似てきたり、イライラしている人が部屋に入ってきた途端に、部屋の空気が一変するようなことは、経験的にもよく理解できます。あくびもこれと同様の効果だといわれます。
◆ 家族に幸せの時間をもたらしたお父さんの話
会社に勤める30代の男性が、あるプロジェクトで5人のメンバーのリーダーに抜擢されました。彼はリーダーという立場は初めての経験でしたが、自分がリーダーになった時は、ああしようとか、こうしたいという理想を持っていました。
ところが現実は思い描いていた理想に程遠く、意志の疎通もままならぬ状態となり、しだいにメンバー間でもまともに口を利かないという悲惨な状態になりました。
彼はある休日の日、4才になる息子と二人、自宅から少し離れたスポーツ用品店に車で買い物に出かけました。車の中で息子は幼稚園での出来事、好きなアニメ、いつも遊ぶ友達などの話をたくさんしてくれました。平日は帰りが遅いため、自宅に戻ると子供達はいつも寝ていますから、普段は聞くことのできない息子の話が微笑ましく、彼は「たくさん話をしてくれてありがとう」と息子に言いました。
ところが息子は次の瞬間、思いがけない事を口にしました。「お父さんは黙っていると怒ってるみたいだから、僕がたくさんしゃべらないといけないと思った」と言うのです。
彼は強い衝撃を受けました。まだ4才にしかならない息子に、そこまで気を使わせてしまっている自分に強い自責の念を感じました。
買い物をすませ自宅に戻った彼は、「子供といる間は黙らない」と決意をしました。とはいえ、四六時中おしゃべりしている訳にもいきません。すぐにできることは、鼻唄をうたったり口笛を吹いたり、とにかく黙っていない素振りを見せる事だけでした。子供と遊ぶ間も、子供と一緒に入ったお風呂の中でもずっと続けました。
するとこの効果は驚くほど簡単にでました。子供達の様子も妻の様子も、いつもより随分と上機嫌で1日を過ごしました。あくる日から彼は、平日は朝自宅を出るまでの間、休日は子供といる間中、いつも鼻唄をうたい口笛をふきました。
◆ 幸せの時間を提供し、人を動かすリーダーになる
自分が上機嫌な素振りを見せることで、周りの人に影響することを知った彼は、職場でもこれを実践してみました。もちろん大きな声では歌えませんから、少し不謹慎かなと感じながらも、小さな小さな、周りに聞こえない程度の音量で口笛を吹き始めたのです。
チームメンバーはリーダーのこの変化を見逃しませんでした。雰囲気が和らぎ、これまで事務的だったコミュニケーションにも日常会話が含まれ、意志疎通が円滑で潤いがでました。
彼は以前に思い描いていた理想のリーダー像を捨て、口笛をふき鼻唄をくちずさむことで、ようやくリーダーシップを発揮できるようになったのです。
◆ リーダーの大切な資質
彼の事を道化師のようだと軽蔑する人もあるかも知れません。しかし、リーダーの資質とは何だろうと考えた時、彼は家庭でも職場でも、明るいプラスの感情を家族や部下に与えられることのできる優れたリーダーです。
試しに今、小さく口笛を吹いてみてください。少し気持ちが明るくなりませんか。この明るさは、相手の「ミラー・ニューロン」という脳の活動でしっかりキャッチされ、すぐに伝染していくのです。
勇作